Disegno con la Modella (ヌードモデルのデッサン)」

今回のイタリア留学のメインの目的は、もちろんジュエリーの学校へ通うことだけど、
もうひとつ大きな留学中の目的として、絵をかけるようになりたいという個人的な目標があり、
語学学校を選ぶ際に、アートコースを併設しているところを選んで入学した。

まず僕の絵についての経歴としては、
小中学校の授業をのぞいて、今まで本格的に描いた事は一度も無く、
むしろ多少の苦手意識があって敬遠していたところもあり、
自分の中では結構大きなコンプレックスになっていた。
だから、うまく描けるようになるのではなく、絵を描くことへの抵抗をなくしたい、
つまり、気軽に絵をかけるようになるというのが当面の目標である。
また、これからジュエリーの仕事をしていく上でも、
面白いモチーフや思いついたアイディアをサッとスケッチできる力が必須だなぁ、という重いもあった。

というわけで、アートコースが留学初日から始まった。
初日は、静物のデッサン。別に描き方云々や、道具の説明があるわけでもなく、
とりあえず描いてみてといきなり言われたので、最初かなり緊張したが、見たままをみようみまねで描きはじめる。
先生(マウリッツォ)のアドバイスにしたがって、3時間掛けてゆっくり丁寧に描いたら、
結構うまく描けた。よしよし。少しうれしい。まあ。さすがに3時間かければ、ね。

2日目も静物のデッサン。今日の課題は、顔の彫刻のデッサン。
今日も半ば緊張しながら集中して描いていると、マウリッツォから何やらみんなにアナウンスが。
「えー・(なんちゃらかんちゃら)・・デッサンコースの人・・(なんちゃら)・・木曜日・・モデル・・デッサン・・
自分のスケッチブック・(なんちゃらかんちゃら)・・」(らしきイタリア語)
え?もでる?!?なになに?よくわからないと思っていると、
その後の英語のアナウンスで「ライフモデル」という単語が。
え?ライフモデル?生きたモデル・・・・!
うそ、まさかヌードデッサン?

念のため、マウリッツォに帰り際にもう一度確認すると、「SI(そうだよ)」。
しかも「UNA DONNA(女性)」。

そんなわけで、デッサン歴4日目にして、ヌードデッサンに挑むことに。

次の日は、翌日のヌードデッサンに備え、人物のデッサン画の模写。
うーん。人のカラダってムズカシイなぁ。
どうしても、色々なパーツを小さめに描いてしまいマウリッツォに何度も指摘される。特に手と足。

さて、いよいよ当日。
一番大きい教室に、10人ぐらいの生徒が孤を描くように座り、モデルの到着を待つ。
皆、何度かすでにモデルレッスンを経験しているらしく、
何をしていれば良いやら、きょろきょろしているのは僕だけ。
とりあえず、スケッチブックを広げ、鉛筆を削り、待つ。

そこへ、マウリッツォに連れ立って、モデルの女性が到着。早速、隣の部屋に準備へ。
約2分後、準備が終わってヌードになった女性とマウリッツォが、再度教室へ。
女性は、30代ぐらいのかなり体つきが豊かなイタリア人女性。

いすに座り、マウリッツォの指示で最初のポーズをとる。
マウリッツォから、「最初のポーズは15分で。じゃあ始めて」とおもむろに開始の合図。
え、たったの15分?マジ?
さっそくパニック。
静物のデッサンのときは、紙のどこに何を書くか考えているうちに、すぐ30分ぐらいたってしまうのに。
とか思っているうちに時間はどんどん経っていくので、とりあえず描き始める。
”立体”の体の形を捉えるのが非常に難しい。
頭、うで、体、足。
がんばって描いてみるが、どうもバランスがおかしいなぁと思っているうちに、
「ハイ、15分。じゃあ、次のポーズは・・・」とマウリッツォ。
全然描けない・・・。

次は、台の上に横になったポーズ。今度は20分。
反省を生かし、今度は構図を決め全体のバランスをよく考えてから描き始める。
ディテールまで描くことはできなかったが、何とかバランスよく掛ける。
で、また次のポーズ。
そんなことを4回繰り返す。
で、一旦休憩。がっくりと疲れる。のども渇く。
中距離走を4本走った気分(そんなに走れないけど)。

さて、後半。
5回目になりようやくだんだん慣れてくる。
表情を少し描く余裕も出てきた。
最後の2ポーズは、少し長めの30分。時間があれば、影を付けてみてとマウリッツォ。
だんだん目も疲れてきて、しんどくなってきたが、がんばって描く。
影を付けるまでの時間はなかったけど、
一度描いたものを見直してみる時間があり、
マウリッツォに色々聞きながら直してみる。

そして終了。
全部で7ポーズ。どっと疲れが出る。
描くのも疲れるんだから、モデルの人はすごいなぁ、と感心。
よく同じポーズをとり続けられると思う。プロだ。

始まる前は、さすがにヌードの女性を前にすると、目のやり場に困るかなぁと変な心配していたが、
描くのに精一杯でそんな余裕はまったくなく、まったく無意味な心配だった。

そんなこんなで、初モデルデッサンは、本当に新鮮でファンタスティコな体験で、
こんなに一定時間集中したのは大学の入試以来な気がする。
40度近い気温をつかの間忘れたあっという間の3時間だった。


その2週後には、今度は男性モデルのデッサンをした。

結構若いモデルで、今度はなぜか少し目のやり場に困った。(なぜだ?!?)
デッサンについては、女性モデルより男性モデルの方が描くのが難しかった。
なぜかは良くわからないが、とにかく腕ひとつ描くのにも何度も描き直した。
女性の体のほうが、曲線で作られていてボリュームもあり形が把握しやすく、
それに対し、男性のほうが、パーツごとのボリュームの差が少なく、
筋肉の曲線が直線に近い曲線なので、形の把握が難しい気がした。


その後、友達にヌードデッサンの話をしたところ、
男性作家による女性モデルの作品は、例外なく必ず性的になる、という説があると聞かされた。
さて、僕は作家ではないけど、果たして僕の絵はどうなんだろう?

戻る