il Presidente (首相?社長?)

「シルヴィオ・ベルルスコーニ」
皆さんもその名前だけは聞いたことがあるのではないかと思うが、現イタリア首相である。
イタリアの首相は、世界の国家元首のなかでも日本の首相と同様に非常に交代が激しいのだが、
現在のベルルスコーニになってからは、比較的政権が安定していてすで3年近く政権が維持されている。
しかし、このベルルスコーニ。政権はある程度安定していても、その政治家としては、公務、私生活ともにまったく安定していない。
ご存知の方も多いかと思うが、首相になってからというもの、スキャンダルのオンパレードなのである。

数あるスキャンダルの中でも一番多いスキャンダルが、問題発言、失言、暴言。
特に欧州会議の議長を務めていた去年の夏には、ドイツ人に対する差別的発言で、
シュレーダー首相自身がイタリアへのバカンスを取りやめるといった事件もあり、
また一連の失言に対しても、だからどうしたといわんばかりに、
特に謝罪や反省の色も見せず、謝罪会見のはずがさらにその場で非難を浴びると言った調子で、
も〜この人ほんと言ってることがめちゃくちゃ・・・と言う感じであった。
差別的発言の内容だって、日本の政治家にありがちな”歴史的認識”に関することなどだけではなく、
「イタリアに来るドイツ人は、酔っ払いが多くマナーが悪い。金払いも悪い」など、
一国の首相にあるまじき発言を公式の場で平気で言ってしまうのである。

イタリア国内でも、EU内でも、非常に悪評が高いベルルスコーニであるが、
同時にこのイタリアでは非常に人気も高い。悪評高いが人気もある、のである。
何でこんな横山ノックを5倍くらいいい加減にして、10倍助平にしたようなおっさんが、
一国の首相を務め、そして人気があるのであろうか。


現在イタリアの首相を務めるベルルスコーニという人は、本当にすごい人なのである。
イタリアによくありがちな”ある意味すごい”といったものではなく、本当にすごいのだ。

サッカー好きの人であれば知っている人も多いと思うが、イタリアの首相ベルルスコーニは、
実は昨年ヨーロッパクラブチャンピョンになったセリエA屈指の名門チーム、ACミランの会長でもある。
そしてこれはイタリアに来てから知ったのであるが、ベルルスコーニはイタリア有数の不動産建設会社の会長であり、
さらに、国営放送に唯一対抗しているメディアセット系列という3つのチャンネルを持つ一大民放ネットワークの経営者であり、
他にも広告代理店、映画制作会社、新聞社を所有し、大手スーパーマーケットチェーンや多くの関連会社を経営する、
イタリアでトップクラスの金持ちなのである。実際フォーブスの世界長者番付でも堂々19位にランキングされたほどだ。
どうすごいのかを日本の首相に当てはめたとすると、
まず大手ゼネコンの会長であり、フジテレビ、TBS、日本テレビ、テレビ朝日をすべて買収統合した民放ネットワークを所有し、
さらには、博報堂、東映、朝日新聞社の社長であり、ダイエーとその関連会社を経営し、プロ野球チームの巨人のオーナーである人が、
日本の首相をやっていると言い換えれば、イメージが沸くのではないだろうか。
一国の首相が、サッカーチームの会長というのも驚きであるが、こともあろうに政治家が、それも首相がその国のマスメディアを支配しているということ自体、
倫理的にもありえないだろうし世界的に見ても信じられないことである。

しかしこれだけで驚いてはいけない。
ベルルスコーニは、親から事業と莫大な財産を引き継いだ資産家の息子という政治家にありがちなプロフィールは持っていない。
なんと彼は、これらの事業をすべて彼一代で築きあげてしまったのである。まさに孫正義、ビルゲイツも真っ青な大実業家なのだ。
彼のエピソードは本当にすごい。
ミラノの中流階級の下ぐらいの家に生まれたベルルスコーニは、生まれながらの実業家であったという。
小さな頃から自作の人形劇などで近所の人からお小遣いを稼ぎ、12歳の頃からアルバイトを始め、14歳の時にはすでに経済的に独立、
自分で稼いだ金で買ったオーダーメードのスーツを着込み中学校に通っていたそうである。
大学を卒業後すぐに一人で建設会社を立ち上げ、図面の線引きからセメントをこねるところまですべて一人でこなすところからはじめ、
ついにはミラノ有数の建設会社にまで発展させた。そこから彼の大成功ストーリーが始まる。
建設会社で得た利益を元に彼はあらゆる分野の事業に乗り出していく。
その中でも最大の事業としては、ミラノの地方テレビ局を買収したのを手始めに、たったの10年余りでイタリア中のテレビ局を買収し、
イタリアでは絶対的であった国営放送ネットワークに正面から対抗する民放TVネットワークを築きあげてしまった。
そして当時セリエBに降格し破産寸前であった名門ACミランを二束三文で買い取り、膨大な資金を投入し、
数年後には見事”無敵のミラン”を復活、誕生させてしまう。
文字通りあらゆる事業で成功を収め続けた彼が次に目指したのが政界である。
まずベルルスコーニは、”フォルツァイタリア(ガンバレイタリア!という意味)”という政党を立ち上げ、
そして自らが所有するマスメディアを総動員して大キャンペーンを展開して選挙にまんまと大勝、
ついに一国の首相の座を手に入れてしまったのである。
イタリア国民は、瀕死のミランを救ったベルルスコーニなら、同じくダメなイタリアも何とかしてくれるだろうと思ったに違いない。

ともかく彼のプロフィールはざっと見てもこんな感じなのである。すごすぎるとしか言いようがない。

特にすごいと思うのが、サッカーチームの買収など一見金持ちの趣味にしか見えないのだが、
マスメディアの支配⇒サッカーチームのオーナーになり人気を獲得⇒マスメディアと人気を利用し政界へ進出というのが、
完全に一連の流れとなっていて、そこに経営者的な大きな”計算”を感じるのである。そしてすべての計算がうまくいっている。

どこかしら、いい加減そうで助平そうに見えるつるりと禿げたおじさんなのだが、
そんな彼のプロフィールを知った後は、その”いい加減さ”や”デカイ態度”などすべてが彼の”器の大きさ”に見えてくるから不思議だ。
イタリア人になぜ人気があるのかの答えがわかった気がしてしまうのである。
大学生があこがれるようなクールなカリスマ経営者ではないが、ベルルスコーニはイタリア人にとって本物のカリスマだ。
そうベルルスコーニは、イタリアの首相ではなく、イタリアの社長なのだ!

とはいっても、”ある意味すごい”のほうでも話題には事欠かないのはさすがにイタリア。さすがにベルルスコーニ。
本当に首相というより社長といった面が強いベルルスコーニは、本当に何に関しても自分でやらなければ気がすまない性格らしく、
首相になった今でも、ACミランの試合中に監督に電話一本で、選手交代や戦術など細かく指示をしているらしい。
またミランが勝った日などは、自分の持つテレビ局のスポーツ番組に平気でゲスト出演してしまうし、
時には記者会見で平気でイタリア代表の戦術について喋り、選球や監督を非難したり持ち上げたりしている。
何度もいうように一国の首相が、である。

そういうベルルスコーニをマスコミも必ず非難めいた報道をするのであるが、
やはりマスコミにとっては、いつでもニュース(スキャンダル)を提供してくれる首相は人気があるだろうし、
国民も国民で、しょうがないやつだといいながら、それを楽しんでいるとしか思えない面もあるのではないか。

極めつけのエピソードは、去年の年末から年明けにかけて、ベルルスコーニは欧州議会の議長の任期を終えた後の休養と称して、
なんと1ヶ月間あまり姿を消した時のこと。(こんなこと自体、他の国ではありえない)
なぜベルルスコーニは公務を行わないのか、公の場に姿を現さないのか、といった話題は他の国でもまだあってもいい話。
しかし、そのうち、ベルルスコーニは南の島に遊びに行っているのではないか、と論調はあさって方向に行き始め、
終いには、「ベルルスコーニは、整形手術をするために、1ヶ月もの公務を休んでいる!」という噂までTVや新聞で大々的に
書かれるようになるのである。一国の首相に整形疑惑が掛けられてしまうである、この国は。
そして年明けにいったい何事だといわんばかりに公務に復帰。そして復帰をした首相に記者たちから投げかけられる質問は、
「本当に整形をしたのか?」。当然首相はそれを否定。ただし、必要以上に否定。怪しい。
マスコミはさらに追求。すると、「ダイエット”は”した」とついに尻尾を出す首相。
怪しい、まだある。しつこく追求するマスコミ。やっぱり整形したに違いない。いやさすがにしていないだろう。
日々この話題がニュースを独占。

そしてついに公務に復帰してから約一週間後、
首相が記者会見で、「目元のしわを取る手術”だけ”した」と告白・・・・・・。

もう何も言うことなし。
一国の首相に整形疑惑をかけてしまうマスコミとかけられてしまう首相、そんなことにあきれていた自分がバカらしい。
疑惑でもなんでもない。
本当に整形していたのだ!この国の首相は!

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